クランクシャフトとトランスミッションの準備が整いましたので、いよいよ組み付けていきます。

上の写真はベースのエンジンに取り付けられていたクランクメタルですが、異物噛み込みによる縦傷も無くアタリも均等に出ており非常に状態が良かったため、再使用も考えましたがコンプリート車両であること、また今後10数年~20数年程度の使用期間を想定考慮し、新品に交換する事としました。

ここでかなりの余談となりますが、これを機会にご説明させていただきます。
一般的にクランクメタルの慣らしの完全なる完了時期はオーナー様の運転状況により大きく変わるため思いのほか走行距離を要することもあります。
この見解はあくまでも当社独自の見解ですので川崎重工様などメーカー様の公式なデータでは無いことを前置きして記事を書き進めます。
このような情報を発信するにあたり、当社では常々お客様へお伝えする情報は
以下のことに十分に注意して行うようにしています。


1、当社内での経験に基づき、検証、追跡調査を行い原理原則にのっとった理論的に説明の出来る情報のみを伝えること
2、雑誌、ウェブ上で活字になった情報を鵜呑みにして安易に伝えない
3、現時点で常識と思われることには左右されない

当社が考える慣らし運転とは以下のように定義しています。
エンジン組付け時(つまり冷間時かつ静的状態)にどれだけ精度を追い詰めて
正確に組みつけてもそれはあくまでもエンジンが冷たい状態、そして動いていない状態で正確に組付けたに過ぎません。
エンジンは通常 温度が上がった状態で回転が上がったり下がったり、しかも大きな負荷が順方向(エンジンがタイヤを回転させる方向)にかかったり逆方向(タイヤにエンジンが回されるエンジンブレーキ方向)にかかったりしながら作動しています。
つまり慣らし運転とは温度が上がってエンジン内部の金属が膨張した状態で少しずつ回転負荷と順方向、逆方向の加重負荷を与えながら作動させてなじませるという行為に他なりません。皆様が認識している一般常識的な慣らし運転は1000~2000km程度で完了するという認識であろうと思います。

当社ではGPZ900Rのエンジンの各セクションごとに一般道路を走行する上で
慣らしが完了する距離には相違があると考えていて
500km以内にピストンとシリンダー
300km~600km程度でトランスミッション
500km~1500km程度でコンロッドメタル
1000km~1万2000km程度でクランクメタル
これらは全て実際に走行してエンジンの回り方、操作感に変化が訪れる
時期を走行距離で大雑把にあらわしたものです。
中でも特にクランクメタルは負荷の与え方によって慣らしが完了するまでの
期間が大きく左右される部品であると捕らえています。
そしてクランクメタルは他の部分と違い、オイル管理さえしっかり行っていれば
5~6万キロ程度の走行で経たるものではなく10万キロ以上の走行にも全く問題なく耐えうる耐久性を持たせてあるとスペックエンジニアリングは考えています。

更についでに足回りの慣らし完了期間も記載すると
フロントフォークは200km~400km
リヤショックは500km~600km
あたりで明らかに動きが変わることが確認されています。

不特定多数の方がご覧いただける情報ですので、重ねて記載しておきます。上記内容はあくまでも当社の経験に基づき、試乗し着手、分解と検証、そして試乗し確認という工程を繰り返し得てきた情報です。
そして、GPZ900Rに関する情報ですので決して他の車種、他のエンジンで当てはまるとは限りません。
他車種、他のエンジンの慣らし運転等の判断をするための情報として参考にすることを固く禁じておきます。


此度のオーナー様に於きましてはクランクメタルの慣らしが完了するまではエンジン回転が少し重く、運転状況次第では数千キロかけてクランクメタルの慣らしが完了することもありえますので、オーナー様はその期間中もエンジンの回り方を感じながらすごされるのも宜しいかとも思います。
寄り道が長くなりましたが納車後の走行距離に応じた愛車の変化をお楽しみください。

メインジャーナルメタルに エンジン始動直後の焼きつき防止のための組付け
ペーストを塗布後、クランクシャフトを載せます。

この後メインベアリングキャップを適正に取り付け、トランスミッションへ移ります。

ベアリング部に使用する位置決めリングは大きな力を受けるパーツなので当然新品交換となります。
サービスマニュアルにも必須交換の記載の無い、一見取るに足らないような小さな
部品にも非常に重要な役割が有り、交換を怠るとお客様にも迷惑をかけ、
エンジンを制作した当社も大きな代償を支払わなければならない事態に陥らないよう
各部を注意深くチェックしながら組みつけてまいります。

アッパー・ロアケースとも準備が完了しましたので、液体ガスケット塗布後、ケースを合わせていきます。

クランクケースボルトもボルトのツバの部分、ねじ山の部分の腐食や汚れを綺麗に
清掃し、適正なトルクがかかるようスレッドコンパウンドを塗布して組みつけてまいります。

最終的にトルクレンチにて締め付けを行い完了ですが、エンジン底部が開いているこの状態でオイル・グリスを塗布し、トランスミッションとシフトまわりの動作・連動チェックを行っておきます。

つづく